山間の峠を越すと、青空がとけたような湖の岸に出ます。
然別湖です。
大雪山国立公園の中で、湖らしい湖はこれだけですが、温泉好きな日本人は、温泉さえあると直ぐ観光地にしたがり、酒と女とを用意して、風景などをほとんど考えに入れていない傾向がありますね。
そうした意味ではこの山の湖は観光地でないかもしれません。
或いは本当の観光地というのかもしれないですね。
私の知っている然別はそういうところでしたが、今はどうなっているか知りません。
ずっと奥の山田温泉はランプをともして山男を迎えてくれましたが、このごろは電気が入ったときいてからは行っていません。
湖畔の岩山や峠のあたりに、小鳥とよく間違えるナキウサギが多いです。
これは大雪山系につながる山地でなければいない大陸系の小動物で、鼠ほどの大きさですが、鼠のように尻尾が長くなく、ウサギと呼ぶには耳が短い臆病者で、なかなか人間に姿を見せません。
しかし、人間が岩の一部のように黙っていると、直ぐ近くに来て、何か天に訴えでもするかのように、チチチチと叫びはじめます。
山霧の流れる峠路は、バスなどで素通りするにはもったいないところ。
遙かな日高の連峰が雲のように連なり、カッコーや山鳩の声が遠い国からでも聞えてくるように、広い十勝平原の彼方から湧きあがってきます。
山霧にうなだれたハクサンチドリや鈴蘭、アヤメなどが季節季節の口笛を吹いてくれます。
温泉に行く人は峠でおりて、緑のトンネルをくぐって、湖畔の宿まで歩く方がいいですよ。
せっかく北海道に来たのなら、札幌旅行だけではさびしいです。